作品紹介

溶解されていく世界(麻生三郎)

麻生三郎は1913年、東京に生まれる。父親は日本画家の鏑木清方と友人で、絵の好きだった麻生は、清方への弟子入りを薦められたこともあった。しかし麻生の興味は、幼少の頃よりダヴィンチやデューラーなど、西洋の油絵がもっぱらであった。

1930年、明治学院中等部を卒業後、太平洋美術学校選科に入学。

そこで松本竣介らと出会う。また、靉光や長谷川利行らとも絵画を通して交遊し、1938年25歳の時には、念願だった渡仏を果たす。

ルーブル美術館に日参し、帰国する前にイタリアに渡ると、ルネサンス以前の絵画に大きく影響を受けた。

帰国後は松本竣介と交流を深くする。

 

戦時中は自身も徴兵され、死が間近にあった麻生。親しく交流をした靉光は戦死し、松本竣介も36歳で病死した。

戦後も戦時中と変わることなく、何かいい知れぬものに支配され、抑制された暗鬱な世相を誰よりも肌と鋭敏な感性で感じ続けた麻生は、姿を持った人間を主題とし、存在する場を空間と捉え、深い思索の世界を二次元の画面上に表現するようになる。

1960年頃からは描かれる人間は解体され、背景に溶解されていくように、一見グロテスクな複雑さと重さを増していく。

 日米安保闘争やベトナム戦争などに触発されて描いた作品もあるように、社会への矛盾や人間が生み出す軋轢などを敏感に捉え描いていった。

画面の中に幾重にも複雑な形で構成されたその景色は、美の対極にあるとも言える人間の社会の真実である。現実を直視する強さ。立ち向かう勇気。それを表現することの苦悩と難解さに麻生は真正面からぶつかって行った。

 

本作は晩年の1989年、76歳の時に描いた作品である。麻生三郎は一貫して、人間を主題として描いてきた。本作は「空・雨」という作品である。そこには、麻生が描き続けてきた人の姿を容易に感じることはない。

ぐずつき出した空から降る雨が、まるで鎮静をもたらすかのような静かさを放つ叙情的な気配を持つ作品である。画面中央の空洞からはこれから差し込む光が控えているようにも見える。

社会の現実を描き続けてきた麻生にとって、晩年の境地はここにあったのであろうか。麻生らしい独特の画風の中に垣間見れる静かな世界が広がっている。

 

(た)

*アートフェア東京2018に出品します

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麻生三郎 「空・雨」

53.0×45.8cm

キャンバス・油彩

1989年